荒木 夏実
2025年03月01日作成年月日 |
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2025年03月01日 |
荒木 夏実 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.136) |
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アートはその時代や社会情勢を反映し、ときに新たな気づきを世に提示してきた。
特に近年は、現在進行形の社会課題をテーマに表現活動を行うアーティストやミュージアムが増え、注目を集めている。
キュレーターとして自らも独自の視点で展覧会を企画してきた荒木夏実氏が、現代アートをめぐる、世界の新しい潮流について解説する。
はじめに
アートと聞いて人は何を想像するだろうか。美しいもの、類稀なる才能を持つアーティストによる卓越した作品、それを見て癒やしを得るもの。そのような印象を持つ人も多いだろう。もちろん、美しい作品を見て楽しむこと、展覧会でそのような作品を見ることによって日常から離れ、ホッとすることなども、アートの素晴らしい側面であることは間違いない。しかし、アーティストが別世界の人間ではなく、私たちの社会の一員であることを考えれば、どの時代であれ、アーティストの作り出すものにはその時代の社会状況が必ず反映されているはずである。
昨今の世界のアートの動きを見てみると、そのことがよくわかる。筆者が訪れたドイツの国際展やイギリスでの展覧会を通して気づいたことを中心に、アーティストやミュージアム(博物館と美術館を含む)がどのように今日の社会問題を意識し、表現や展示を行っているかについて述べるとともに、その可能性について考察したい。
西欧中心のアートの解体と多様なアートのあり方
2022年、ドイツの都市カッセルで現代アートの国際展「ドクメンタ15」(2022年6月18日〜9月25日)が行われた。1955年に始まったドクメンタは5年に1度開かれ、イタリアの「ヴェネチア・ビエンナーレ」と並ぶ重要な国際展として、毎回大きな注目を浴びている。15回目となる今回、展覧会の陣頭指揮を執る芸術監督としてインドネシア出身のアーティストコレクティブ(グループ)である「ルアンルパ(ruangrupa)」が選出された。ヨーロッパ出身の芸術監督が常である国際展においてアジアから監督が選ばれたことは初めてであり、しかもアーティスト集団であったことは画期的なできごとだった。